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平成29年度司法試験・民事訴訟法の考え方を一番丁寧に解説

民事訴訟法ってどういう思考方法をしていけばいいのか分かりづらい科目の一つですよね。

民事訴訟法の基本書は論点主義的なところを感じるので、民事訴訟法の基礎を勉強したうえで、事例問題を実際に解くときにどのような思考方法を用いたらいいか分かりづらいかと思います。

そこで、実際の司法試験の問題を参考に、民事訴訟法の事例問題の解き方を詳しく解説してみました。
問題文の読み方から詳しく解説していますので、司法試験の問題の解き方の参考にしてみてください。

問題文の引用は、以下の法務省のサイトから行っております。
https://www.moj.go.jp/jinji/shihoushiken/jinji08_00145.html

この記事を書いた人
司法試験合格ぷろじぇくと

ロースクール在学中に平成28年予備試験に合格(論文式試験90位代)
平成29年司法試験に合格(総合順位500位)。現在弁護士として活動中。
司法試験合格後に憲法、行政法、商法のまとめノートを販売し、100件以上の販売実績あり。「司法試験を計画的に合格すること」を提唱していきたい。

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設問1

まずは、設問にパッと目を通します。
民事訴訟法の場合、設問自体に問いが書いてあることは少なく、「○○から与えられた課題に答えなさい」ということが多いです。
設問を読んでも分からないようであれば、素直に冒頭から問題文を読んでいきます。

本問では、事例部分に特に問題は示されていません。
しかし、「Aは,……この売買契約はAがYの代理人としてXと締結したものであることなどを述べた。期日においては,本件絵画の取引が贈与又は売買のいずれであるか,また,売買であるとしてその代金額は幾らかに焦点が絞られ,AがYの代理人であったか否かについては,両当事者とも問題にしなかった。」という部分が引っかかります。
証人Aが売買契約は代理によってなされたと証言したにも関わらず、それに関する主張はなされていないからです。これは、証拠から明らかとなっているが、主張されていない事実を認定できるかという弁論主義の問題となりえます。そこで、本問は、弁論主義に関する問題ではないかとあたりがつくことになります。

次に、J1とPの会話部分を読んでいくことにします。

民事訴訟法の問題ですから、事実認定及び実体法の解釈としてどのような判決がなされるべきかというのは問われません。よって、J1の第1発言及びPの第1発言は特に意味を持ちません。

J1の「あなたの言うような判決を直ちにすることができるのでしょうか。まず,Yの代理人AとXとの間で契約が締結されたとの心証が得られたとして,その事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかについて,考えてみてください。」という部分が課題を示す部分です。
よって、答案にはこの課題、ひいては、設問1に対応した内容を書かなければなりません。

「その事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかについて、考えてみてください」という部分は、まさに弁論主義の第1テーゼについて考えなさいという直接的な指示をしています。
基礎中の基礎の知識として、この指示が弁論主義の第1テーゼを意味することを判別できなければなりません。
司法試験の問題文を読み、その意味を理解するための知識は基礎中の基礎の知識です。
問題文を読んでも意味がわからなかった場合には、必ず理解できるように復習しなければなりません。

それでは、解答の思考方法に入ります。

「その事実を本件訴訟の判決の基礎とすることができるのかについて、考えてみてください」とあることから、まずはどのような場合にある事実を判決の基礎とすることができるかについて規範を示します。ここで用いられるのが、弁論主義の第1テーゼです。
よって、訴訟において当事者により主張された主要事実が判決の基礎とすることができることになります。

ただし、ここで注意が必要なのは、当事者によって主張されていない事実であっても間接事実であれば判決の基礎とすることができるからです。そこで、「その事実」、すなわち、「Yの代理人AとXとの間で契約が締結された」事実主要事実かどうかを検討する必要があります。
結論として、代理人によって法律行為がなされた事実、顕名、先立つ代理権授与については、主要事実となります。なぜ代理に関する事実が主要事実になるかは一言書いておいたほうがいいでしょう。

以上より、弁論主義の第1テーゼからは、「Yの代理人AとXとの間で契約が締結された」事実は、本件訴訟の判決の基礎とすることはできないということになります。
なお、この代理人による法律行為と主張原則という論点については、判例百選掲載判例(最判昭和33年7月8日民集12巻11号1740頁)があることから、判例を摘示したうえでそれに対する意見を述べておいたほうがいいでしょう。もっとも、この判例は上記の理論的な帰結とは異なる判断をしていることから、その批判をすることは難しく、無理に考えて時間を使う必要まではないという判断をしておきましょう。もちろん批判について論じられるのであれば、簡潔に書いておくべきです。

運営者
運営者

ちなみに、私が解いたときは、代理人による契約締結の事実は、本件訴訟における主要事実を否認する意味を持つ間接事実ではないかな?と迷ってしまいました。

しかし、修習生Pがいうような判決をする場合には、代理人による契約締結の事実は主要事実になります。会話文を正確に読めていなかったので無駄に迷っていましました。

採点実感では、さらに理論的帰結を示した以降のことを論じるように求めていますが、現場で問題文を読んでそこまで求められていると判断するのは難しいです。
「あなたの言うような判決を直ちにすることができるのでしょうか」と理論的帰結だけで足りるような会話文であるとともに、他に詳しい検討を求める会話がないこと、配点をみると設問1には15パーセントしか点が振られていないことからいえます。

限られた時間ないの点取りゲームを意識したときには、このように問題全体からどこまで書けばいいかを判断することが必要です。

最後に、「あなたの言うような判決を直ちにすることができるのでしょうか」という課題の部分にも必ず答えておきましょう。
論点は主張原則に関するものですが、設問はそこだけではありません。こういうところも気を使っておく必要があります。

設問2

設問2についても、具体的な設問は会話文中に含まれています。

課題①

まずは、課題①です。「訴訟物の捉え方については様々な議論がありますが,あなたの捉える本件の訴訟物は何になるかを示した上で,各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば,『Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。』との判決をすることができるか,考えてみてください。その際,先ほどお願いしたYの主張の位置付けの整理も行ってください。これを課題①とします。」とあることから、ここが設問に当たります。

順番に読むと「あなたの捉える本件の訴訟物は何になるかを示した上で」とあることから、まずは本件の訴訟物を示す必要があります。
その前提として「訴訟物の捉え方については様々な議論がありますが」とあることから、本件の訴訟物を示す前提として、訴訟物理論について触れておく必要があるのだと分かります。
訴訟物理論については、前提の前提なので詳しく論じる必要はありません。理由を一つ挙げた上で、どのような考えをとるのかを簡単に論じましょう。

訴訟物としては、「贈与契約に基づく目的物引渡請求権」となります。本問ではこれ以上詳細に訴訟物を示す必要もないでしょう。

順番は先後しますが、「その際,先ほどお願いしたYの主張の位置付けの整理も行ってください。」と指示があることから、最終的な解答の前提としてここに触れておく必要があることになります。

メインとなる課題は、「各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば,『Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。』との判決をすることができるか,考えてみてください」という部分です。
「どのような申立てや主張がされれば」というオープンクエスチョンなので、答えるのはなかなか難しそうです。実際、配点も一番大きいことから、設問2が合格答案かどうか分けることになるでしょう。そういう意識を持って答案構成をし、答案を作成する必要があります。

もう少し会話文を注意深く見ると、J1の第1発言に対して、Pが回答した後、J1は、Pの回答に対して「本当にそうでしょうか」と返事をしています。つまり、Pの回答は問題があるということです。そういう疑いを持って読んでいく必要があります。

J1の第2発言第2文とPの第2発言から、「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である。」という事実の、請求原因事実に対する位置づけを問われることがわかります。
これは、「その際,先ほどお願いしたYの主張の位置付けの整理も行ってください。」という指示と同じものです。
民法でも問われるところですが、「法的意味合い」というものが問われた場合には、その事実が主要事実そのものか、主要事実であるとすれば、請求原因事実か、抗弁事実か、再抗弁事実か、間接事実であるとすれば、どの主要事実についてどのような意味を持つ間接事実かということをおよそ答えることになるかと思います。

最後に、J1の第3発言第1文には、「本件は,訴訟代理人が選任されていないこともあり,紛争解決のために,両当事者の曖昧な主張を法的に明確にする必要がありそうです。」とあります。
「曖昧な主張を法的に明確にする」という部分から釈明に関する発言であるとわかります。ここも、キーワードとして押さえて、釈明に関するものであるとすぐに分かるようにしましょう。

それでは、解答の思考過程に入ります。

まずは、民事訴訟の基本である訴訟物から考えます。
おそらく受験生の多くがとっていると思われる旧訴訟物理論にしたがって以下では考えたいと思います。
なお、贈与契約に基づく目的物引渡請求権と売買契約に基づく目的物引渡請求権と分けて考えない旧訴訟物理論があるようですが、そこまで訴訟物理論を深く勉強してないひと(私含む)は、これらを分けて考える見解に当然のようにしたがっておけばいいでしょう。
いずれにしても上記のように、訴訟物理論についての論述は、前提の前提の論点なので、少しで足ります
訴訟物理論について学習していなかったひとは、軽い理由づけだけでも基本書で確認しておきましょう。
元に戻ると、訴訟物は「贈与契約に基づく目的物引渡請求権」となります。
Xとしても、事例の冒頭で「贈与契約に基づく本件絵画の引渡しを求めるため」と発言していることから、素直に考えてこの訴訟物で合っています。

訴訟物について確認した後で、ゴール地点である設問文を確認します。
「各当事者から少なくともどのような申立てや主張がされれば,『Yは,Xから200万円の支払を受けるのと引換えに,Xに対し,本件絵画を引き渡せ。』との判決をすることができるか,考えてみてください」とあります。
ゴールとなる判決は、「200万円の支払を受けるのと引換えに」とあることから、売買契約を前提とする判決です。
しかし、上記のように訴訟物は、贈与契約に基づくものです。すなわち、裁判所が直ちに上記判決をするとすれば、訴訟物以外の権利関係(売買契約に基づく目的物引渡請求権)について判断をしたことになります。
そうすると、このような判決は処分権主義(民訴246条)に反することになると思い至るはずです。

そこで、どのような申立てや主張がされれば、上記判決をしても処分権主義及び民訴246条に反しないかを考えることになります。
この点については、知識で回答するほかありません。
このような問題を解く対策として旧司法試験の一行問題を解くことは一定程度意味があるでしょう。
一行問題については答案を書くことまでせず、「解析民事訴訟」などで確認しておけばいいのではないかと思います。
結論として、予備的追加的併合として、売買契約に基づく目的物引渡請求を追加する訴えの変更の「申立て」(民訴143条)をする必要があることになります。

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上記訴えの変更の申立てがなされ、訴えの変更が許可されたとして、それだけで上記判決がなされるわけではありません。
上記判決は、引換給付判決です。
そこで、引換給付判決がなされるのはどのような場合かを考える必要があります。
これも知識問題です。結論としては、被告から同時履行の抗弁が主張された場合です。そこから、同時履行の抗弁が、権利抗弁であり、同時履行の抗弁権を行使すると意思表示しなければならないという知識まで使います。
つまり、同時履行の抗弁を主張するためには、被告により同時履行の抗弁権を「主張」する意思表示がなされる必要があるということです(実際には、「原告が売買代金300万円を支払うまで本件絵画の引渡しを拒絶する」と主張することになると思いますが、司法試験的にはそのような表現をすることまでは求められていないと思われます)。

以上のとおり、訴えの変更の「申立て」同時履行の抗弁権の「主張」がなされれば、他に上記判決をするのに民事訴訟法上の妨げはありません。
よって、これらがひとまずの答えとなります。ただし、これらの申立てと主張がなされているかを具体的な本問の事例に即して検討しなければ司法試験の答案としては低評価です。そこで、以下では本問の事例に即して考えていくことにします。

まず、訴えの変更の申立てですが、これはどう解釈してもXによってされていません。訴えの変更は、書面によってされる必要があります(民訴143条2項)。しかし、このような事実は問題文にありません。司法試験では、問題文に書いてない事実は存在しないものとして扱うのが原則です。よって、これはされるべき申立てとなります。

一方で、同時履行の抗弁権の主張ですが、これは「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である。」とYが主張していることから、一応それらしく見えます。
上記のとおり、実際に要件事実論上主張すべき表現とはだいぶ異なりますから、これがそれらしく見えると捉えるのは無理がありますが、J1の発言から釈明について触れられることが求められるのはわかりますから、そういう頭で捉えればなんとか理解できなくもないです。
釈明の対象かどうかは基本書や判例から分かるところではなく、実務的な感覚だと思うので、ただ勉強してるだけでは自然にたどり着くのは難しいと思います。

一応問題に解答することを意識すると、「本件絵画をXに時価相当額で売却し,その額は300万円である。」というYの主張の意味合いを検討しなければなりません。
これをどの位置に書くかは正直よくわかりません。前提として聞かれている以上、メイン論点の前にナンバリングを分けて書いておけばよいと思います。

思考過程としては、以上のとおりとなります。これをうまく答案に落とし込むのは難しいと思います。採点実感でも指摘されているところですが、訴訟手続の流れを理解していないと難しいです。
論点主義的な発想ではうまくまとめられません。うまく流れがつくれないときは、やむを得ないので論点主義的にナンバリングを駆使してぶつ切りの答案を書くしかないのでしょう。やはり、旧司法試験の一行問題を解くことはある程度必要なのかもしれません。

課題②

次に、課題②についてです。

課題②は、課題①の申立て及び主張がなされたという前提で、証拠調べにより「仮に,本件絵画の時価相当額が220万円と評価される場合あるいは180万円と評価される場合には,それぞれどのような判決をすることになるのかについても,考えてみてください。」というものです。本当に一行問題です。

このように、2つの場合につき検討する問題については、2つの場合を比較することが念頭に置かれています。
つまり、どのように問題を考えるかに先立って、「本件絵画の時価相当額が220万円として判決される場合」「本件絵画の時価相当額が180万円として判決される場合」の意味を想像することになります。
この意味が想像できれば、あとはその仮定ともいえる想像を検証していく作業になります。この検証作業を答案に示せば答案としては足ります。

まず、ここまでの事例の前提として、Xは時価相当額として200万円を主張し、Yは時価相当額として300万円を主張しています。
220万円というのはこの主張の間の額であり、180万円というのはこの範囲を外れる額です。
そうすると、なんとなく、220万円という判決は問題がなく、180万円という判決は問題となりそうです。
そして、ここでなぜ問題となりそうか考えます。それは、当事者の主張する額とは異なるからです。
このような分析ができれば、ヒントは見えてきます。当事者の主張と異なる場合に問題となるのであれば、それは処分権主義弁論主義かの問題だと想像できます。
そこで、処分権主義及び弁論主義について違反しないか検討すればよいということになります。

なお、弁論主義に違反しないような判決をするべきというのは、発想として難しいものだと思われます。この点について書けている人は多くないようですから、思いつかないとしてもやむを得ないところだと思います。しかし、今後の出題の際には気をつけてみてください。

それでは解答の思考過程を示します。

まず、処分権主義についてです。
処分権主義、今回ですと246条ですが、これは当事者の申立てとの関係で問題となります。
よって、当事者の申立てが何であるかを第一に考えなければなりません。

今回、課題①で必要な申立てがされた前提ですから、訴えの追加的変更がなされて、売買契約に基づく目的物引渡請求権が訴訟物として追加されています。今回の引換給付判決についても売買契約に基づく目的物引渡請求権との関係で考えていくことになります。

引換給付判決については、質的一部認容判決と言われており、原告の申立てを100パーセント認めるものではありません。
一方で、被告の申立て(「原告の請求を棄却する」という請求の趣旨に対する答弁)を100パーセント認めるものでもありません。
よって、その中間である引換給付判決は、当事者の申立てとは異なる判決をするものであって、形式的には処分権主義に反するように見えるものです。しかし、それは直感的におかしいので、処分権主義の趣旨から考えます。処分権主義の趣旨である、原告の合理的意思の尊重と当事者の不意打ち防止に反しないのであれば、処分権主義には反しないことになります。

原告にとっては、一定額を支払ったとしても目的物を引き渡してもらうことを求めるものですから、220万円の引換給付判決は原告の合理的意思に適います。また、被告にとっても、300万円の引き換えまで争っていたのですから、被告が主張する200万円よりも多くなったとしても不意打ちとはなりません。よって、不意打防止との趣旨にも反しません。

以上より、220万円の引換給付判決については、処分権主義に反しません。
なお、原告としては200万円が代金額であると主張していることから、これよりも多く払うことは、原告の合理的意思の範囲外とも考えられるかもしれません。自分なりに理由を論じることができれば、この点を捉えて処分権主義違反と主張できます。あくまで主たる目的が目的物の引き渡しであることを考えると合理的意思の範囲内といえるのではないでしょうか。

180万円の引換給付判決についても、220万円と異なることなく原告の合理的意思にはかないます。
被告にとっては、原告の主張する200万円よりも原告に有利な判決がなされることはないだろうと考えていますから、さらに有利な判決である180万円の引換給付については被告にとって不意打ちとなり得ます。
よって、180万円の引換給付判決については、処分権主義に反することになります。なお、別の考え方もありうるところではあると思います。

次に、弁論主義との関係についてです。220万円という額についても、180万円という額についても、当事者によって主張されていないわけですから、このような認定は弁論主義に反しないかということになります。

弁論主義については既に述べたところですが、本問では時価相当額で売買されたというところが売買契約の要素であり、主要事実であるので、当事者により主張されなければならないものです。
本問では時価相当額で売買されたということは、原告被告間で一致するところです。
よって、220万円と認定しようと180万円と認定しようとも、弁論主義には反しないことになります。
弁論主義の対象が何であるかというところを意識してみてください。
なお、220万円や180万円というのは、時価相当額についての評価になります。事実の評価については裁判所が行うもので当事者の主張に拘束されません(自由心証主義)。

最後に、以上のとおりであるならば、結論は、220万円と評価される場合には、220万円との引換給付判決がなされることになり、180万円と評価される場合には200万円の限度で引換給付判決がなされるべきこととなります。

設問3

J2から与えられた課題とは、「本件は,Yの訴訟代理人の主張するように,前訴判決に沿って,直ちに請求認容判決をすべきなのでしょうか。」という部分に対する答えです。その前提として、「既判力の範囲に関する民事訴訟法の規定に遡って考え」つつ、「前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨にも触れながら,後訴において,XY間の本件絵画の売買契約の成否及びその代金額に関して改めて審理・判断をすることができるかどうか,考えてみてください。」というものです。

 問題文には特に解答のヒントとなるものはありません。実質的に一行問題といえるでしょう。

最初から解答の思考過程に入ります。

民事訴訟法の問題でどのような流れで回答するか分からなければ、会話文で触れることを求めている知識について、ひとつひとつ解答を考えた上で、そのひとつひとつのブロックをどのような流れで組み合わせたら自然につながるのかということを考えればいいです。
問題を作るにあたって自然につながる解答をイメージしているはずですから、自然にならなければどこかで間違っているはずだといえます。

今回触れることを求められているのは、「既判力の範囲に関する民事訴訟法の規定」「前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨」です。

既判力の範囲に関する民事訴訟法の規定とは、今回の事例からすれば既判力の客観的範囲についての規定のことを求められていますから、114条1項の「主文に包含されるものに限り」という部分であると分かります。
この「主文」とは、訴訟物についての判断であるといわれています。そして、今回の訴訟物についての判断とは、売買契約に基づく目的物引渡請求権が存在するというものです。
「Xから200万円の支払を受けるのと引換えに」という部分については、訴訟物についての判断ではありませんから、既判力は生じません。
前訴判決の主文において引換給付の旨が掲げられていることの趣旨が、双務契約における牽連性を強制執行との関係においても保障するため,債権者が反対給付又はその提供をしたことを証明したときに限り強制執行を開始することができること(民事執行法第31条第1項)を主文において明らかにする点にあることからも、前訴判決に拘束力を持たせる必要はないですから、既判力は生じないといえます。

以上より、既判力は生じないとするのが解答の中間地点です。
しかし、ここでは終わりません。
求められているのは、「後訴において,XY間の本件絵画の売買契約の成否及びその代金額に関して改めて審理・判断をすることができるかどうか,考えてみてください。」というものです。既判力以外に改めて審理・判断することを妨げる理由があれば、それについても解答する必要があります。

既判力の論点に関連して、信義則上の制限についても頭に浮かぶと思います。頭に浮かばなければ要復習です。

信義則が出てきた以上、明確な基準があるとはいえませんから、当てはめが勝負になります。
これは、本問に限らず司法試験において一般的に通用する話なので覚えておいてください。
判例などをしっかりと勉強する際に、当てはめの基準を類型化できていればそれを参考にすればよいです。類型化できていないのであれば、信義則上そのような判断がなされる理由から当てはめをしていけばよいです。

本問であれば、後訴において改めて審理・判断すべき理由とするべきでない理由とを問題文からできる限り事実を拾って、適切に評価すればよいです。
どのような事実を拾うべきかは、出題趣旨をみればわかると思います。
出題趣旨に載っていないものについても拾えればいいですが、最低限である出題趣旨掲載部分については必ず拾いましょう
拾えていない場合は、問題文の読み込みが甘いか、拾うべき観点がわかっていないです。

本門の場合には、問題文にヒントとなることはあまり書かれていません。拾うべき観点からどのような事実を拾うかを逆に考えていくことになります。
本問の出題趣旨を読めば、拾うべき事実が問題文に明確に書かれていないことがわかると思います。
よって、このところの拾うべき観点については、問題演習を繰り返して覚えていくしかないです。

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